レポート
REPORT
地域と消防がつくる、子どもたちの防災教育。
梅本修平さん|北九州市戸畑消防署
「地震が起きたらどうする?」
そう聞かれたら、「机の下に入る」「頭を守る」と答える子どもも多いでしょう。
では、そこに机がなかったら?
上から落ちてくる危ないものがあったら?
北九州市戸畑消防署で行われた小学生向け「夏休み防火・防災体験教室〜こどもBOUSAIサバイバル〜」で、担当の梅本修平さんが子どもたちに最初に投げかけたのは、
「この場所で地震が起きたら、何が危険だろう?」
という問いでした。
1.地域の企業と消防がつくる防災教室
今回の教室に参加したのは、一般社団法人北九州市防災協会戸畑支部の会員企業に勤める保護者と、その子どもたちです。
戸畑支部には、2025年5月現在132社の会員事業所があり、事業所の防災訓練や防災技術の研究、地域に根ざした自主防災活動や防災行事などに取り組んでいます。
その子どもたちへの防災教育を担当したのが、戸畑消防署予防課の梅本修平さんです。

2.まず「危険を見る」こと

「この会場では何が危険だろう?」
梅本さんは、減災紙芝居『がたぐら』を使いながら、子どもたちにわかりやすく説明していきます。
地震が起きたとき、危ないものはガタガタと音を立て、ぐらぐらと動く。
では、身の回りでは何が起こるのか。
何が倒れてくるのかな。
何が動いてくるのかな。
何が落ちてくるのかな。
梅本さんが問いかけます。
「ここで揺れたら、何が危ないだろう?」
これまで「地震が起きたら机の下に入る」「頭を守る」と、身を守る行動を教わってきた子どもたち。
今度は、自分たちがいる会場を見渡し、危ないものを探します。
これまで教わってきた身の守り方に加えて、まず、自分がいる場所に「どんな危険があるのか」考え始めました。
3.危険を、実際に確かめる

梅本さんが子どもたちに目を向けてもらったものの一つが、天井です。
地震では、天井材などの非構造部材が落下することがあります。文部科学省は、東日本大震災で屋内運動場の天井材が全面的に崩落するなど、非構造部材に大きな被害が生じたことを受け、天井等の落下防止対策や非構造部材の耐震対策を進めています。
文部科学省「学校施設の天井等非構造部材の耐震対策先導的開発事業」
そこで梅本さんが用意したのが、実際の天井材です。
子どもたちは、約20kgある天井材を体験し、その危険を確かめました。
「天井から物が落ちてくることがある」と言葉で聞くだけでは、その危険がどの程度のものなのかまでは分かりません。
実際の天井材を持つことで、手で防げるものなのか、よく見て、危険から離れる必要があるのかという違いが、より具体的になります。
4.揺れの中で、いろいろな姿勢を試す

次の体験は、どこでもゆれ体験マット「YURETA(ユレタ)」です。
子どもたちは、立った姿勢、しゃがんだ姿勢、体操座り、ダンゴムシ、カエル、トカゲなど、さまざまな姿勢で揺れを体験します。保護者と一緒に身を守る姿勢も試しました。
ここで試すのは、姿勢そのものだけではありません。
実際に揺れている中で、周りの危険を見ることができるのか。危険に気づいたとき、その危険を避けて動くことができるのか。
子どもたちは、姿勢を変えながら、実際に体を動かして確かめていきます。
一つの姿勢を「正解」として覚えるのではなく、揺れている中でも周囲を見て、危険に応じてどう動くのかを体験することが大切です。
5.梅本さんが大切にした「体験して考える」

梅本さんは、消防職員として働く一方、プロのウェイクボーダーとしても活動しています。
競技では、何度も挑戦し、経験を積み重ねながら技術を磨いてきました。
今回の防災教室でも、梅本さんが大切にしていたのは、実際に体験することでした。
体験して、そこで起きることを見て、考える。
言葉で知るだけではなく、実際に体験し、自分で確かめてみる。
梅本さんは、そんな時間を子どもたちの防災教育に取り入れています。
6.火災も、地震も。体験から考える防災教室

火災が起きたらどうするのか。
煙の中ではどう動くのか。
地震で揺れたら、周囲の何が危険なのか。
災害によって、起きることも、とるべき行動も変わります。
戸畑消防署で行われたこの日の教室には、子どもたちが実際に体験しながら、防火・防災について考える機会がいくつも用意されていました。
そして、この取組には後日談があります。
梅本さんの講義を受けた事業者から、「感動したので」と、YURETAの体験環境を整えるためのシートを北九州市防災協会戸畑支部へ寄贈したいという申し出がありました。
YURETAには、どの程度の強さで揺らしているのかを目で確認できる専用シートがあります。
一つの体験が人を動かし、地域の中に新しい協力が生まれる。
北九州市防災協会戸畑支部と戸畑消防署による子どもたちへの防災教育をきっかけに、地域の事業者から新たな協力が生まれました。
体験を届ける。その体験を受けた人が、自分にできる形で動く。
戸畑での実践から、地域とのつながりが一つずつ広がっています。
取材・文
NPO法人減災教育普及協会
理事 村上智一
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